[cinema] 『イーディ、83歳 はじめての山登り』
夫の介護に30年間尽し、人生のエンディングが近づいていることも悟りつつ抗いたくもなった老婦人が、ふとしたきっかけで、かつて父親から絵葉書で誘われたスコットランドの山の登頂を目指す物語。家父長的な家族観の下で自分の気持ちを押し殺して夫の考えに従ってきた一方で娘の意見も親切にしてしてくれる周囲の人たちのアドバイスも聞き入れない主人公の二面性が、どこか懐かしく、どこか哀しくうつりました。
主人公は最初、物置から引っ張り出してきた骨董品のような登山道具で家を出て夜行列車に飛び乗ります。ところが旅の途中で知り合った男性の登山用品店で最新式の軽くて使いやすくてカラフルな登山道具を目にして全て新調することに。しかし最後は登山の途中で背負っている荷物の重みに耐えられなくなり、全て置いて体一つで山頂を目指すことになります。過去の経験を捨てて新しい知識を。そして最後は借り物の知識ではなく生身の我だけが残る。示唆に富んだプロットだと思いました。実際の登山の途中で、そんな学びのプロセスを回していては危ないですが…😅
[book] 『みかづき』
昭和30年代、夫婦二人で始めた学習塾が高度成長期、バブル崩壊と時代の波に揉まれながらも成長してきた姿を家族の物語とともに描いた小説。
私自身、都市部の子供の通塾率が8割を越えて「未塾児」なんて言葉が口の端にのぼった時代に個人経営のそろばん塾や地域ブランドの学習塾、首都圏展開した学習塾と渡り歩いた?ので自らの過去の思い出に重ね合わせて面白く読みました。
[cinema] 『のぼる小寺さん』
ボルダリングに一生懸命な高校生と、そんなクラスメイトに影響されて一歩を踏み出す高校生を描いた青春映画。
工藤遥さん演じる小寺さんは目の前のことにいつも一生懸命。だから合唱の練習でも学園祭の催しでも、いつでも全力投球。誰かのために壁にのぼるのではなく、ただただ目の前の壁に挑戦を続けます。だからと言って部活の仲間や同級生に冷淡なわけではありません。ただ、壁を登るのは自分の力、自分の意志だけだとの達観がどこかにあって、その達観が菩薩のように全ての人を分け隔てなく受け入れる広い心を産む姿にうっとりしました。
「何度も挑戦してやっと登れた時は、やっぱり自分が嬉しい」という主人公の姿がとても清々しい映画でした。
[cinema] 『星屑の街』
売れないコーラス・グループと歌手になることを夢見るヒロイン、という一見ありがちなストーリーと侮っていましたが、個性際立つベテラン俳優とのんさんの掛け合いが小気味よく、戸田恵子さん演じるパッとしないベテラン歌手の歌唱も味わいがあり、最後まで楽しく見ることができました。昭和歌謡曲、それも昭和のかなり前半のヒット曲なので、ちょっとピンとこないところもありましたが、ちょっと苦くて、でも暖かい作品でした。